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東京で再開発が進む街と進まない街|渋谷と神楽坂から学ぶ3つの理由

東京の街を歩いていると、景色がどんどん変わる場所と、昔ながらの風情が残る場所があることに気づきますよね。

その違いは偶然ではなく、街の未来を決定づける明確な理由があります。

この記事では、再開発が進む渋谷と進まない神楽坂を例に、行政の方針や複雑な土地の権利、地域住民の想いといった3つの分岐点をわかりやすく解説します。

この記事でわかること

目次

東京の再開発、街の姿を分ける3つの分岐点

東京の街を歩いていると、次々と景色が変わる場所と、昔ながらの風情が残る場所があることに気づきます。

この違いは単なる偶然ではなく、そこには街の未来を決定づける3つの大きな分岐点が存在します。

それは、行政が描く都市計画、土地の権利関係、そして地域住民の価値観です。

これらの要素が複雑に絡み合い、ある街では大規模な開発を推し進め、またある街では変化を緩やかにしています。

これから、その3つの分岐点を一つずつ詳しく見ていきましょう。

行政が描く都市計画という名の設計図

都市計画とは、街の将来像を定め、その実現に向けて土地の使い方や建物のルールなどを決める行政の設計図のことです。

国や東京都が「国際競争力を高める拠点」と位置づけるエリアでは、開発を促進するための特別なルールが適用されます。

例えば、虎ノ門や八重洲、品川などは「特定都市再生緊急整備地域」に指定されており、容積率の緩和や許認可プロセスの迅速化といった措置によって、高さ300mを超えるような超高層ビルの建設が可能になるのです。

一方で、神楽坂のように歴史的な街並みを守ることを重視する地域では、「景観条例」によって建物の高さやデザイン、色に至るまで厳しい制限が課せられています。

行政がその街にどのような価値を見出し、どのような未来を描くかという方針の違いが、再開発の進み具合を大きく左右する最初の分岐点となります。

土地の権利関係というパズルの複雑さ

大規模な再開発を進めるためには、まず広大な事業用地を確保する必要があります。

しかし、この土地の権利関係が、まるで解き方の見えない複雑なパズルのようになっていることが少なくありません。

例えば、品川駅周辺の開発がスムーズに進んだ背景には、もともと国鉄が所有していた広大な車両基地跡地という、権利者が一つにまとまった土地があったことが挙げられます。

これに対して、古くからの住宅街や商店街では、土地が細かく分割され、無数の個人が所有しているケースがほとんどです。

再開発を行うには、その土地の権利者一人ひとりから合意を得る必要がありますが、時にはその数が数百人、数千人規模にのぼることもあります。

全員の合意形成には膨大な時間と労力がかかり、このプロセスが難航することが、特に下町エリアで再開発が進まない大きな理由の一つなのです。

地域住民が持つ街への愛着と歴史的価値観

再開発は、単に古い建物を新しくすることではありません。

それは、そこに住む人々の暮らしやコミュニティそのものを変える出来事です。

だからこそ、地域住民がその街に抱く想いが、3つ目の重要な分岐点となります。

開発によって経済が活性化し、生活が便利になるというメリットへの期待がある一方で、多くの住民はデメリットにも目を向けています。

長年続いてきたお祭りや商店街での挨拶といった日々の営みが失われる「コミュニティの崩壊」への懸念や、愛着のある風景が失われる「景観問題」は根深いものがあります。

地価高騰によって、何世代にもわたってその土地に住み続けてきた人々が、住み慣れた場所を離れざるを得なくなるケースもあります。

こうした住民の街への愛着と歴史的な価値観が、大規模な開発に対する慎重な意見となり、街の変化の速度をコントロールしているのです。

なぜ違うのか、渋谷と神楽坂の事例比較

同じ東京という都市にありながら、街の姿が全く異なる渋谷と神楽坂。

その背景には、単なる開発計画の違いだけでなく、街が目指す未来像そのものの違いがあります。

両者の特徴を比較することで、再開発の進む・進まないを分ける要因がよりはっきりと見えてきます。

この比較から、渋谷は未来の成長を見据えたダイナミックな「更新」を選択し、一方で神楽坂は過去から受け継いだ価値を守る「継承」を重視していることがわかります。

事例1 未来への投資を続ける街、渋谷

渋谷で進む再開発は、単に古い建物を新しくするだけではありません。

日本の国際競争力を高めるための戦略的な街づくりと位置づけられています。

「100年に一度」ともいわれるこの大規模再開発は、2027年度の完了を目標に複数のプロジェクトが同時進行する壮大な計画です。

渋谷ヒカリエを皮切りに、渋谷ストリームや渋谷スクランブルスクエアなどが次々と開業しました。

この迅速な開発を可能にしたのが、東急グループが中心となって進める公民連携のプロジェクトである点です。

大資本と行政が一体となり、明確なビジョンを共有することで、交通インフラから商業施設まで街の機能全体を刷新するような開発が実現するのです。

事例2 歴史と風情を継承する街、神楽坂

一方の神楽坂は、大規模な再開発とは一線を画し、歴史的な風情を守るまちづくりを進めています。

その根幹にあるのは、江戸時代から続く花街としての歴史や、石畳の路地が持つ地域固有の文化的な価値を保護するという強い意志です。

神楽坂エリアは、新宿区によって「景観まちづくり重要地区」に指定されています。

これにより、建物の高さや色、デザインに至るまで細かなルールが定められており、街の雰囲気を損なうような建築物は建てられません。

神楽坂の事例は、住民と行政が一体となって文化的な価値を守ることを選択した結果といえます。

再開発の目的を経済効率だけでなく、文化の継承に置いているのです。

国際競争力と地域文化保護という目的の差

再開発の方向性を決定づける最も根本的な要因は、その目的です。

再開発は、その街が将来どのような役割を担うべきかというビジョンに基づいて計画されます。

渋谷の目的は、ニューヨークやロンドンと肩を並べる国際的なビジネス・文化の拠点を創出することにあります。

そのため国は「特定都市再生緊急整備地域」に指定し、容積率の緩和といった特別な措置を講じて、世界中の企業や才能を惹きつけるための投資を強力に後押ししています。

一方で神楽坂は、その地域固有の文化や歴史的な街並みそのものが価値であると位置づけられています。

片方は世界との競争に勝つための「攻め」の再開発、もう片方は地域固有の魅力を守り育てる「守り」のまちづくりという、目的そのものが根本的に異なっています。

土地所有の集中度が生む開発スピードの違い

再開発のスピードを左右する物理的な制約が、土地の所有状況です。

これは、再開発に必要な土地をどれだけ円滑に確保できるかという問題に直結します。

渋谷駅周辺では、東急グループが長年にわたり広大な土地を所有してきました。

所有者が限られているため、約270ヘクタールにも及ぶ広大なエリアで一体的かつ迅速な計画を進めることが可能です。

対照的に神楽坂のような古くからの市街地では、土地が細かく分割され、無数の個人や商店がそれぞれ所有しています。

全員の合意を取り付けなければ大規模な開発は始められず、その交渉には膨大な時間と労力がかかります。

土地の所有が集中しているか、それとも細分化されているかが、そのまま開発の実行力とスピードの差として表れるのです。

再開発の進行を左右する要因の深掘り

再開発が進むかどうかの背景には、これまで見てきた3つの分岐点に加えて、より具体的な制度や社会的な課題が存在します。

ここでは、再開発の進行速度や方向性を決定づける根本的な要因について、さらに詳しく見ていきましょう。

国による強力な後押しから、地域に根差した条例、そして住民一人ひとりの権利や想いまで、様々な要素が複雑に絡み合っています。

これらの要因を理解することで、なぜ東京の街が多様な姿を見せるのか、その理由がより鮮明になります。

国が後押しする特定都市再生緊急整備地域

特定都市再生緊急整備地域とは、都市の国際競争力の強化を図るため、国が主導で都市再生を推進するエリアのことです。

この制度は、都市開発を加速させるための強力なエンジンとして機能します。

指定された地域では、容積率の大幅な緩和や許認可プロセスの迅速化といった特例措置が適用されます。

2024年4月時点で全国に65地域あり、そのうち東京都内には虎ノ門・麻布台や八重洲、品川駅周辺など25地域が指定されています。

これらのエリアで大規模なプロジェクトが次々と実現しているのは、国による強力な後ろ盾があるからです。

この制度の指定を受けるかどうかは、再開発のスピードと規模を大きく左右する決定的な要素となります。

街並みを守る景観条例の役割

景観条例は、地域の良好な景観を守り、育てることを目的として、地方公共団体が定めるルールを指します。

再開発を促進する制度がある一方で、こちらは街の個性を守るための「ブレーキ」として機能します。

例えば神楽坂は、新宿区の「景観まちづくり重要地区」に指定されています。

この地区では、建物の高さ制限はもちろんのこと、道路から壁面を後退させる距離や外壁に使える色彩にまで細かな基準が設けられています。

このような規制があるため、歴史的な街並みの風情が保たれる一方で、高層ビルを中心とした大規模な再開発は事実上不可能になるのです。

景観条例は、経済的な効率性よりも文化的な価値を優先し、その街らしい風景を守る上で重要な役割を果たしています。

防災と生活が交差する木造住宅密集地域の課題

木造住宅密集地域(木密地域)とは、古い木造建築物が密集し、火災発生時の延焼リスクや避難の困難さが懸念されるエリアのことです。

東京にはこのような地域が数多く残されています。

東京都は震災時の被害を減らすため、木密地域の不燃化を推進しています。

しかし、再開発を進めるには、住民の高齢化、建て替えに必要な費用の問題、そして長年住み慣れた土地やコミュニティへの愛着といった、住民一人ひとりの生活に直結する課題が山積しています。

防災性の向上という大きな目標と、個々の生活を守りたいという想いがぶつかり合うため、抜本的な解決が難しいのです。

この問題は、都市の安全性と個人の暮らしという二つの側面が交差する、東京が抱える根深い課題の一つです。

合意形成の壁となる細分化された土地所有権

再開発プロジェクトを始動させる上で、最も時間と労力がかかるプロセスの一つが権利者の合意形成です。

特に、土地の所有権が細かく分かれていることは、計画の進行を阻む大きな壁となります。

都市再開発法に基づく事業では、区域内の土地所有者および借地権者のそれぞれ3分の2以上の同意が必要とされます。

数百、数千人にも及ぶ権利者一人ひとりの生活や財産に関わるため、全員の理解を得るプロセスには数年から数十年単位の時間を要することも珍しくありません。

一人でも連絡がつかなかったり、計画に納得できなかったりする権利者がいると、プロジェクト全体が停滞してしまうのです。

土地の権利関係の複雑さは、再開発計画の初期段階における最大のハードルであり、下町などで開発が進みにくい根本的な理由となっています。

開発による経済効果とコミュニティ喪失の懸念

再開発は経済的な利益をもたらす一方で、地域社会に負の側面をもたらす可能性も指摘されています。

多くの住民が懸念するのは、街の物理的な変化だけでなく、これまで育まれてきた地域のつながりや文化が失われることです。

新しいオフィスや商業施設は固定資産税の増収や新たな雇用を生み出し、街に活気をもたらします。

しかしその裏で、地価高騰により古くからの商店や住民が立ち退きを余儀なくされ、長年続いてきたお祭りやイベントがなくなるといった「コミュニティの崩壊」も起こり得ます。

例えば下北沢の駅前再開発では、利便性が向上した一方で、かつての雑多で個性的な魅力が薄れたと惜しむ声も聞かれます。

経済的な合理性だけでなく、住民の愛着や記憶といった数値化できない価値をいかに守り、次の世代に継承していくかが、今後のまちづくりにおける重要な論点となります。

変わりゆく東京、注目の大規模再開発エリア

行政の方針や土地の権利関係によって、再開発の進み具合は異なります。

特に、国の国際競争力強化という強い後押しを受けるエリアでは、街の姿が劇的に変わる大規模なプロジェクトが進行中です。

ここでは、東京の未来を象徴する4つの大規模再開発エリアを紹介します。

これらのエリアは、それぞれが独自の役割を担いながら東京全体の価値を高めることを目指しています。

単に新しいビルを建てるだけでなく、交通インフラの整備や防災機能の向上、国際的な交流の促進といった複合的な目的を持っている点が共通しています。

世界のビジネス拠点を目指す虎ノ門・麻布台

虎ノ門・麻布台エリアは、森ビルが中心となって進める再開発により、世界の企業や人材を惹きつける国際的なビジネス拠点へと変貌を遂げています。

特に2023年に開業した「麻布台ヒルズ」は、約8.1ヘクタールの広大な敷地に、オフィス、住宅、商業施設、インターナショナルスクールなどを集約しています。

約24,000㎡の緑化空間を確保し、「緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街」というコンセプトを体現しました。

このエリアの開発は、単なるオフィス街の創出にとどまりません。

職・住・学・遊が一体となった新しい都市モデルを提示し、東京の国際競争力を牽引する役割を担っています。

空の玄関口として進化する品川駅周辺

品川駅周辺は、羽田空港へのアクセスの良さに加え、リニア中央新幹線の始発駅となることから、日本の新たな玄関口としての役割が期待されています。

JR東日本が進める「グローバルゲートウェイ品川」構想では、約13ヘクタールにも及ぶ車両基地跡地を活用し、国際会議場や高級ホテル、国際水準のオフィスなどを整備する計画です。

2024年度のまちびらきを目指して開発が進められています。

この再開発は、世界中から訪れる人々を迎え入れるための交通インフラ整備と、国際的なビジネス・交流機能を一体的に高めることを目的としています。

リニア中央新幹線が開業すれば、品川は国内主要都市と世界を結ぶ結節点として、その重要性を一層高めることになります。

東京の新たな顔となる八重洲・日本橋

八重洲・日本橋エリアは、日本の玄関口である東京駅前に位置し、歴史と革新が交差するエリアとして再開発が進んでいます。

2023年3月に全面開業した「東京ミッドタウン八重洲」は、オフィスや商業施設に加え、国内最大級のバスターミナルを備えています。

地下2階に位置するバスターミナルは、これまで駅周辺に点在していたバス乗り場を集約し、利便性を向上させました。

このエリアの再開発は、交通のハブ機能を強化すると同時に、周辺の日本橋エリアと連携して国際金融都市としての機能も高めていく狙いがあります。

伝統を継承しながら未来のビジネスシーンを創造する、まさに東京の新たな顔となる開発です。

複数のプロジェクトが同時進行する新宿

新宿エリアは、世界一の乗降客数を誇る新宿駅を中心に、駅と街を一体的につなぎ直す「新宿グランドターミナル」構想のもとで再開発が進んでいます。

2029年度の完成を目指す「新宿駅西口地区開発計画」では、小田急百貨店本館の跡地に地上48階、高さ約260mの超高層ビルが建設される予定です。

また、東口では2023年に「東急歌舞伎町タワー」が開業し、エンターテインメント機能の強化が進んでいます。

新宿の再開発は、東西の回遊性を高め、駅と街の分断を解消することが大きな目的です。

ビジネス、商業、エンターテインメントといった多様な顔を持つ新宿の魅力をさらに引き出し、訪れるすべての人にとって使いやすく、刺激的な街へと進化させていきます。

まとめ

東京の再開発は、場所によって進み具合が大きく異なります。

その背景には、単なる計画の違いだけでなく、それぞれの街が目指す未来像そのものの違いが存在するのです。

この記事で解説した視点を持って街を歩くと、普段見ている景色が全く違って見えてきます。

あなたが今いる場所はどのような未来を描いているのか、ぜひ考えてみてください。

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